【第042話】背中
2026/07/18
「僕が?」
倉田は静かにうなずく。
「そうだな……俺も部下たちも、元から裏社会の人間だったわけじゃない。堅気の時に色々あって行き詰まったところをおやじに救われた」
宮城は神妙な面持ちで倉田を見つめている。
「お前は色々やらかしてはいたが、気概は悪くないし、俺たちと違ってやり直せると思った。だから、お前が独り立ちできるまでは真っ当にやろうってな。だが、続けていったら似たような奴らが集まってきて、ここまで続いちまったって訳だ」
「それは、倉田さんの人望と経営手腕ですよ」
倉田は首を横に振る。
「そんなことはない。五年前にお前を取締役にしてからは、ほぼ任せていた。ここ数年の実績はお前の力だ」
「それでも……」
宮城は奥歯を噛み締める。
それを見て、倉田は彼の肩を叩く。
「今のお前は人心への配慮もできる。同じ失敗をすることはないだろう。強い信念と行動力で会社を引っ張っていってくれ」
宮城はしばらくうつむいていたが、表情を引き締め顔を上げる。
「分かりました」
倉田は穏やかに口角を上げる。
「ああ、あとは任せた」
宮城は力強くうなずいた。
「でも、これだけは言わせてください。僕は、倉田さんの想いと作り上げてきたものを受け継いでいきます」
「これからはお前が社長なんだから、お前の好きなようにやればいい」
「ダメです。これだけは譲りません」
倉田は静かに息を吐く。
「好きにしろ」
*
「ついに、あいつが独り立ちですか……」
隣に座る高村は感慨にふける。
「まあ、もっと早くても良かったんだが。成長していくあいつらと会社を見ているのが楽しくてな」
「俺もですよ。最初はどうなるかと思いましたが」
「そもそも、お前が連れて来たんじゃないか? 公園で声をかけたんだっけか?」
高村は膝を叩く。
「そうでした。今にも死にそうな雰囲気でベンチに座ってたもんで、コーヒーを差し入れて話を聞いてやったんですよ」
倉田は首をかしげる。
「それが全ての始まりだな。普通、声かけないだろ? その後も、うちの奴らは、そんな人間ばっかり連れてきやがって。本当にどうしようかと思ったぜ」
「そうは言いますが、一番熱心に面倒を見てたのは、兄貴じゃないですか?」
「そうですよ~」
運転席からもツッコミが入ると二人は笑い合う。
「みんなよく成長した。今のあいつらなら大丈夫だろ」
「ええ」
「これで一つを除き、憂いはなくなった。あとは、踊り切るだけだな」
車はネオンが輝く幹線道路から暗い路地へと入っていった。
