【第041話】欺瞞
2026/07/04
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「失礼します」
一人の青年が部屋へ入ってくる。
「かけてくれ」
倉田も立って出迎え、着座を促す。
青年は売上や人員配置について淡々と報告した。
倉田も相槌を打ちながら耳を傾ける。
そして、それが落ち着くと倉田が話題を変える。
「宮城、お前は入って何年になる?」
唐突な質問に青年は戸惑う。
「? 十年、いや、十一年ですね」
倉田は穏やかな表情になる。
「……そうか、もうそんなになるのか」
「ええ、それがどうかしたんですか?」
「いや、聞いてみただけだ」
彼は立ち上がり、窓の外を眺める。
「あの頃は十人もいなかったな」
宮城も表情を緩める。
「そうですね。あの時はここまで大きくなるとは思いませんでした」
「だな。お前も含めて、みんなが頑張ってくれたおかげだ」
暫しの沈黙の後、倉田は宮城の方を向き直す。
「会社を宮城、お前に任せたい」
「えっ?」
宮城は顔を上げる。
「俺と副社長、人事部長の三人は退任する」
彼は慌てて立ち上がる。
「退任は三日後、明日の夕方までに新体制の人事をまとめてくれ」
「待ってください。いきなり、そんなことを言われても……」
倉田は宮城の方へ歩み寄る。
「無茶を言ってるのは承知だが、やってもらうしかない。高村と井川にはいつでも退任できるように準備をさせていたから、ほぼ実務への影響はないはずだ」
「いったい、何があったんですか? そんなに急がなくても……」
宮城は食い下がる。
「状況が変わった。俺たちがいると皆に迷惑がかかるかもしれない」
「……倉田さんたちの本業の方ということですか?」
彼が恐る恐る尋ねると倉田は目を見開く。
「気づいてたのか?」
「……薄々ですけど、そうかもしれないと」
倉田は腕を組む。
「ふぅ~、俺たちもまだまだだな」
宮城は倉田の動きを見守っている。
「心配するな。この会社は真っ当で悪事はしていない。それは、帳簿や契約を見てもらえば分かる」
倉田は表情を緩め、両手を開く。
「みんな本気で働いてくれている。それを俺たちの都合で使うのは違うだろ?」
「……何で、そこまで律儀に?」
彼は一呼吸置く。
「俺たちの組は商売が生業で、ボスが人道に厚い人だった……それに、お前がいたからだ」
倉田の独白は、宮城の戸惑いを待ってはくれない。
