【第030話】心探し
2026/02/21
真也が一歩を踏み出すと、結月も一歩を踏み出す。
「これからどうすればいいんだろ?」
結月がつぶやく。
「心界は初めて?」
「うん」
真也の問いに、彼女は不安そうな表情になる。
「そうだな、どこから説明したらいいか……」
彼は右手を口にあてる。
「ここは、私の異能が生み出した空間って認識で合ってる?」
真也は、目を見開く。
「ああ……そうだね」
「どうしたの?」
結月は彼をのぞき込む。
「いや、飲み込み早いなって」
「そう?」
真也は微笑む。
「なに?」
「いつもの感じだね」
結月は赤面して、そっぽを向く。
それでも、手はギュッと握られている。
「まずは、出るための糸口探しだね」
「糸口?」
結月が顔を向けると真也はうなずく。
「心界を出るためには、異能の“核”を見つけないといけない」
「異能の核……」
「そう、それに触れることができれば、心界から出れるらしい」
結月は怪訝な表情を浮かべる。
「あなたは見つけてるんじゃないの?」
真也は首を振る。
「俺は自分の心界にすら入れてないんだ。他人のは何回も入ってるんだけどね」
「そうなんだ……」
「何かトリガーがあるみたいなんだけど、まだ分かってないんだ」
彼がもの悲し気な顔をすると、つながれた結月の手に力が入る。
(“大丈夫だよ”ってことかな?)
真也が微笑むと、結月はフッと表情を緩めた。
「話を戻すと、手がかりを探して、核を見つけないとってことね」
「うん、ただ、闇雲に歩いて見つかるものじゃないみたい。雪峰さんの言葉を借りるなら、“自分の心を探す”ようなイメージらしい」
「う~ん……」
「まあ、この言葉だけだとね……」
しばしの沈黙のあと、真也が何かを思いつく。
「あのさ、想いの断片をたどってみない?」
「想いの断片?」
真也はうなずく。
「この空間って真っ暗闇だけど、場所によって、入ってくる想いというか温度というか、それが違うんだよね」
「そうなの?」
「うん、Irisの人たちの心界ではあまり感じなかったんだけど、この心界ではそれがある」
結月は口を尖らせる。
「なんか恥ずかしい。全部分かっちゃうってことでしょ?」
「……」
彼女は考え込む。
「……私が変なこと思ってても引かないで」
結月は弱々しくつぶやくと、真也は彼女の手をギュッと握る。
「引くわけないだろ」
「うそ、嫌な面見たら、いなくなっちゃうんでしょ」
真也は彼女の空いている手も掴み、目を見つめる。
「俺はいなくならない。どんなことがあっても一緒にいる。大丈夫だから」
結月は真也の瞳をしばらく見つめて、うなずいた。
「分かった。じゃあ、進む」
真也もうなずいた。
そして、二人で改めて前を向く。
「ヒントは“心探し”ね」
「そうだね。その言葉からすると、君っぽい方へ歩いていく感じなのかな? 一先ず、それで行ってみる?」
「うん」
一歩を踏み出し、また一歩と歩みを進めていく。
「ホント、不公平。私だけ気持ちを曝されちゃってっさ」
しばらくすると結月がプンプン怒りだす。
「俺の時には君が一緒に来てくれるんでしょ? それでお相子じゃない?」
真也が彼女をのぞき込む。
「……それなら許す。私だけさらし者にしたら許さないからね」
「分かってるよ」
結月が握った手を振り出すと真也もそれに応えた。
