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【長編小説】君の闇、光へと通ず ~現代異能探偵青春譚~

【第028話】守る者の覚悟

*

「ん……」

「目が覚めたみたいね」

かおりが真也をのぞき込む。

「ここは?」

「Irisよ」

真也は起き上がろうとするが、力が入らない。
かおりが真也を制止する。

「もう少し休んでなさい」

真也は枕に頭を落とす。

「力が入らない」

「気力が抜けきってるからね」

「“気力”?」

「今はいいわ。何か食べたいものある?」

「普通に御飯が食べたい」

「オッケー。ちょっと待ってて」

かおりは処置室を出ていく。

「ふぅ……」

扉が勢いよく開く。
結月が真也に駆け寄る。

「……良かった」

「良かったじゃないよ!」

彼女は真也の胸倉をつかむ。

「死んじゃうかと思ったんだからね!」

結月の目が潤む。

「ごめん……」

「勝手にカッコつけて! これであなたがいなくなったら、私はどうしたらいいの……」

彼女はうつむく。

「……」

結月は手を離すと、部屋を出ていってしまった。
真也は気力を振りしぼって起き上がろうとする。

「怒られちゃった?」

入れ替わるように藍が入ってくる。

「……怒られました。あの――」

「大丈夫よ、今はそっとしときましょ」

真也はベッドに倒れ込む。

「落ち着いたら、お礼言っときなさいよ」

「お礼?」

「君が寝込んでる間、彼女がずっと見ててくれたのよ」

「来栖が?」

藍がうなずく。

「代るって言っても、私が見るって」

「……」

「心配し過ぎて、爆発しちゃったのかも」

「……なんでそこまで?」

彼女は微笑む。

「いなくなっちゃうかもって思ったんじゃないかな」

「どういうことですか?」

藍はしばし考え込む。

「……彼女の家のこと知ってる?」

「いえ」

「そう……」

「何か関係あるんですか?」

彼女は悲し気な表情を浮かべる。

「……結月はね、ある事件によって家族を引き裂かれたの」

「!」

「だからね、怖かったんだと思う」

真也は神妙な表情を浮かべる。

「まあ、それだけでもないだろうけど」

藍は真也の頬を指でつついた。

*

「異常はなさそうね」

かおりは聴診器を外しながら告げる。

「もう一日二日したら立って歩けるようになるわ」

真也は周囲を見回す。

「母さん、この部屋は?」

「ここは、異能にかかわる医療を行う場所よ」

彼はある装置を見つめる。

「これは、吸い出した気力をため込む装置」

「“吸い出した気力”?」

かおりは装置に手を当てる。

「そう。私の能力はあらゆるエネルギーを吸収する。ただ、そのまま吸ってしまうと、私にも害があるから、吸い出したものをこれにため込んでる」

「そうなんだ……母さんはずっとこういうことを?」

「ええ、異能医療が私の専門よ」

「“異能医療”……そんなものが」

「異能は身体にも精神にも大きく関わっている。だから、医療的なアプローチも必要になるってわけ」

「知らないことだらけだな」

真也は視線を落とす。

「まっ、表には出ないからね」

かおりはパソコンへと向かう。

「あのさ、来栖は?」

「結月ちゃん? う~ん……謝るべきね」

「えっ?」

彼女はしばし考える。

「そうね……真也はよくやったと思う。親としては、女の子を守ったあなたを誇らしく思う。でもね……」

真也は神妙な表情を浮かべる。

「彼女の立場からすれば、同じ目線で歩いていたはずのあなたに守られてしまった。自分は守られる側の人間なんだって思ってしまった」

「そんなこと――」

「分かってるわ。そんなつもりはなかったことも。でも、これは理屈じゃないの」

「……」

「もし、これで、あなたが返らぬ存在となったら、結月ちゃんはどう思うか想像できる?」

彼はうつむく。

「守るにしても捨て身はダメ。そんなのでは、守られた側も、命は助かっても、心に深い傷を負ってしまう」

かおりは真也の手を握る。

「真也が、他人を守りたいと思うなら、自分も生き抜く覚悟を持ちなさい。そして、正々堂々と守れるように、その術を身につけなさい」

真也はしばらくして顔を上げる。

「……分かった」

かおりも彼の表情を見て、うなずく。

「よろしい」

「歩けるようになったら、ちゃんと謝ってくる」

「うん、そうしなさい」

彼女は優しく微笑んだ。

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