【第051話】言えない気持ち
2026/10/24
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藍と結月が戻ると、店の前で一人の男が佇んでいる。
「あぁ~、休みだったか……」
男は頭をぼりぼりとかき、立ち去ろうとする。
「あら、久しぶりじゃない? どうしたの?」
藍が声をかけると、男は振り向く。
「びっくりした……久しぶりに日本に帰ってきたら、ここのコーヒーが飲みたくなってね」
男は穏やかに微笑む。
「今、休みと知って、打ちひしがれてたところだよ」
本当に残念そうに肩を落とす。
それを見て、藍が申し訳なさそうに結月に視線を送ると、彼女もうなずく。
「休みだけど、帰国記念に一杯くらいは入れてあげるわよ?」
「本当かい? それじゃ、お願いします」
男は藍に向かって手を合わせた。
*
藍と結月はカウンターの中でテキパキと支度をする。
男はカウンター席に座り、手を組み、静かに待っている。
男は姿勢もよく、黒いスーツを着こなし、髪もしっかり整えられている。
時折見せる眼光の鋭さも相まって、何事にも動じなさそうな落ち着きと風格を感じる。
視線に気づいたのか、男は結月を見て穏やかな表情を浮かべる。
結月は慌てて視線を外す。
「この人、どこかのシークレットサービスみたいな雰囲気だけど、コンサルタント会社の社長さんなのよ」
それを見た藍がすかさずフォローするが、男は苦笑いだ。
「別に普通だろ」
「そう思ってるのは本人だけじゃない?」
男は困ったように腕を組む。
「ふう、嫁と娘にも言われたよ」
「娘さん、いるんですか?」
結月が質問する。
「ああ、ちょうど君くらいの年頃かな。どうしてだい?」
「いや、え~っと……」
結月がたじろいでいるのを見て、藍が助け舟を出す。
「そんな雰囲気がないから、驚いちゃったのよね?」
結月もうなずく。
「なるほど、家族がいる感じに見えなかったと……耳が痛いね」
男はしばしうつむいた後に結月の方を見る。
「一つ参考までに聞きたいんだが、仕事ばっかりで、家族を疎かにしている父親ってどう思う?」
結月は口を尖らせる。
「……分かりません」
「そうか」
藍が彼の前に静かにコーヒーを置く。
「ありがとう」
男はカップを口へ運ぶと、ゆっくりと目を閉じる。
「染み渡るね」
彼は寂しげな表情を浮かべる。
結月はそれを見て、申し訳なさそうにうつむいた。
