【第040話】焦り
2026/06/20
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「なんだその目は!」
整えられた髭を蓄えた男は烈火のごとく怒鳴る。
「……」
「お前が生きてられるのは誰のおかげだ!?」
髭の男は、倉田の胸倉に掴みかかる。
「このプロジェクトは我々のリスクも大きい。慎重に動かなければ我々が破滅します」
「破滅がどうした! 俺の立場はどうなる!?」
(……本音が出たな)
「彼らの提示の半分も達成できてないんだぞ!」
倉田は冷めた目で髭の男を見つめている。
髭の男は奥歯を噛み締め、倉田を突き飛ばす。
「2ヶ月で何とかしろ! 分かったらさっさと行け!」
「分かりました。善処します」
彼は襟を整えながら淡々と答える。
「善処ではなく結果を出せ!」
倉田は無言で一礼すると部屋と邸宅を後にした。
そして、足早に車の後部座席に乗り込むとすかさず発車する。
「どこへ向かいます?」
運転席の男が倉田へ問いかける。
「適当に走った後に新第三に向かってくれ」
車は幾度か右左折を繰り返しながら、邸宅街を離れていく。
運転席の男はバックミラーをにらむ。
「……付けられていますね」
「ふぅ、どんな奴だ?」
「シルバーのセダンに男が二人、サツでしょうか?」
倉田は口に手を当てる。
「いや、多分違う。警察はそこまで掴めていない」
「つまり、身内ってことですか?」
「おそらく榊の手下だろうな」
「組長の?」
「ああ、いよいよ余裕がなくなってきたらしい。今日もえらい剣幕で結果を迫られた」
「へっ、派手にやり始めたわりに胆力がないこった」
倉田は一笑すると携帯を取り出す。
「ひとまず、新第三に向かうのはなしだ。本社に行く」
「了解です。後ろのは? 巻きますか?」
「いや、こちらで引き付ける。北ルートを使え」
そして、電話をかけ始める。
「倉田だ。本社と旧拠点の人員を新拠点に近づけるな。次の通達まで、外に出ている連中だけで対応しろ。一般社員には気取られるな……ああ、詳細は戻り次第伝える。よろしく頼む」
電話を切ると、今度はタブレットを取り出し、思考にふける。
その後も倉田は短い電話を数本かけた。
淡々と指示を出し、人の動きを変えていく。
一段落すると、煙草に火を点ける。
窓に目を向けると雨が降り始めたようだ。
(時間がないか……)
深く吐き出された煙にはため息が混じる。
その煙は薄く開けた窓から吸い込まれ、千切れるように後方へと消えていった。
