【第031話】あなたのいいところ
2026/02/28
結月は眉間にしわを寄せる。
「あのさ、違いがよく分からない……」
「そうかな? さっきの場所とこことではかなり違うんだけど……たぶんこっちかな?」
彼女は真也に手を引かれながら歩みを進める。
「なんか複雑……」
「なんで?」
結月は口を尖らせる。
「だってさ、あなたは分かって、自分じゃ分からないんだよ?」
「う~ん……」
「自分のことなのに、よく分からないまま」
彼女は視線を落とす。
真也も考え込む。
(確かに、彼女自身が納得しないまま進むのはよくないかも)
彼は足を止める。
「そうだね、君の言うとおりだ」
「えっ?」
結月は真也を見つめる。
「これは本来、君自身が探していくものだ。俺が勝手に決めるのは違うな。ごめん……」
「別に攻めてるわけじゃ……私が自分で分からないのがいけないんだから」
彼は首を振る。
「いや、勝手に決めるなって言われたばかりなのにさ……」
結月は目を見開く。
「別に勝手じゃないんじゃない? 私も嫌だったら嫌って言えるし」
「そうだけど、君が選んだ方がいいと思う」
真也はまっすぐに彼女を見つめる。
結月はしばし考え込み、顔を上げる。
「そうだね。私の異能だから、私が理解しないと」
彼もうなずく。
「ねえ、感覚を教えてくれないかな?」
「感覚?」
「そう、それが分からないんじゃ進めないから。まず、自分が“想いの断片”だっけ? それを掴めるようになりたい」
「分かった」
真也は口に手を当てる。
「今は、何か感じる?」
「そうだねぇ……そよ風くらいのサワサワするような感覚だけかな。あなたが言うような、温度とか、想いが入ってくるとかはないかな」
「なるほど……何が違うのかな?」
結月は目を閉じる。
「う~ん、人も違うし、考え方も違うし……そんなの上げ始めたら切りないんじゃない?」
「そうだけど、何かが違うからこそ、気づけてるってことでしょ? だから、そこにヒントがあるんじゃないかな」
二人で考え込む。
「大きいところで言えば、視点は一つあるかもね?」
「視点?」
結月は真也の方を見る。
「そう。君は自身だから主観で、俺は他人だから客観」
「他人だから見えることもあるみたいな感じってこと?」
「まあ、そんな感じかな? 可能性でしかないけど」
彼女は顔を上げる。
「試してみる」
真也は目を見開く。
「手がかりもないし、思いついたものを試そう。やれば何かしら変化があるから、そこから掴めるものはあると思う」
「さすが。君のそういうところ、俺、ホント尊敬してる」
結月は怪訝そうに真也をのぞく。
「それは褒めてるの?」
「褒めてる、褒めてる。頼もしいし、好きだね」
彼女は赤面する。
「そんなところ褒められたの初めて」
「嫌だった?」
結月は首を振る。
「嫌じゃない、嬉しかった」
真也は微笑む。
「上っ面で人を見るのが嫌でさ、そういう感じになっちゃうんだよね」
結月も微笑む。
「それはあなたのいいところ。私も好きだなそういうの」
真也は赤面し、視線をそらす。
「ずるいな。それって褒めてる?」
「また同じくだりをするの?」
二人で笑い合う。
「仕返し成功だね」
結月がVサインを見せつけると真也は口を尖らせる。
「なんのだよ。君は褒める部分の宝庫だから覚悟しときなよ」
「今度は宣戦布告? 褒めたって何も出ないよ」
「関係ない。俺が褒めたいから褒めるんだ」
「じゃあ、楽しみにしてる」
「うん」
そうして、二人が笑い合うと、温かい空気が二人を包み込んだ。
