【第022話】人が背負うもの
2025/12/27
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「だぁー、こうなっちまったかぁ」
ゆかりは眉間を押さえて、うつむいた。
「あたしも腹くくるしかねぇな」
「私がいると何かまずいんですか?」
結月が切り込む。
「う~ん、まずいわけじゃないんだが……まあ、いろいろあるというか……」
ゆかりの語気は弱くなっていく。
「鷲尾さんは母さんたちから何か聞いてないんですか?」
彼女は目を大きく見開き、身を乗り出す。
「どういうことだ?」
真也と結月は顔を見合わせる。
結月はゆかりへ、立ち聞きの顛末を説明した。
「はぁ、なるほど、なるほど……やられたぁー!」
ゆかりは髪をかき荒らす。
「俺たちはまんまと策略に乗せられたわけですね」
真也が水を差しだすと、ゆかりは一気に飲み干した。
「ふぅ……」
彼女は腕を組み、呼吸を落ち着かせる。
「取り乱して悪かった。改めてになるが、警察庁刑事局異能犯罪対策課の鷲尾だ。よろしく頼む」
「来栖結月です。よろしくお願いします」
結月が応えるとゆかりもうなずく。
「いろいろあるにはあるんだが、お嬢が協力してくれるのは正直助かる」
「……鷲尾さんは私のこと、知ってたんじゃないんですか?」
ゆかりはバツの悪そうな表情を浮かべる。
「う~ん、そうだなぁ……」
彼女はうつむく。
「まあ、想像はつくから大丈夫です」
「ごめんなぁ」
ゆかりは泣き出しそうな声で謝る。
「じゃあ、今日の報告といきますか」
見守っていた真也が切り出した。
「そうだな」
ゆかりも真剣な表情に戻る。
真也と結月はそれぞれの持っている情報をゆかりへ伝えた。
「なるほどな……う~ん」
「彼女は何かの病気だったりとかは?」
ゆかりはしばし考え込んだ。
「お前たちの読み通りだ。彼女は難病を患っている」
「“難病”?」
「ああ、近年になって発見された病気らしく、治療法も確立されてないらしい」
「どんな病気なんですか?」
「力があふれるような感覚が出るんだとか、でも、身体機能は衰弱していくっていう、何だかよく分からない病気なんだ」
「そうですね……」
「まあ、私たちは医療の専門家じゃないから、その議論をしてもしょうがないんだがな」
真也もうなずく。
「彼女は去年の夏頃に発症して、治療を受けつつ日常生活をしていた。だが、10月ごろから一気に悪くなり始めたそうだ」
真也と結月は神妙な表情で聞いている。
「彼女の最近の調子は?」
「良くはなかったんだろうが、小康状態のような感じだったらしい。それで、ホッとしたの束の間、彼女は失踪。両親のことを思うとな……」
しばしの沈黙の後、ゆかりが口を開く。
「これが青柳怜の事情だ。でも、あまり入り込みすぎるなよ。お前たちが気に病むことじゃない」
「分かってます……」
真也は唇をかむ。
「生きてれば誰しもが何かを背負っている。彼女も、お前たちも、あたしもな。彼女の背負ったものが、それだったというだけの話だ」
「病気と失踪の因果関係はあるんですか?」
結月が質問する。
「現状、因果関係は確認されてない。ただ、病気による心境の変化で、行動パターンが変わっていた可能性はある」
「彼女の最近の様子は?」
「両親や主治医から聞いた限りでは、特段変わった様子はなかったそうだ」
結月は口に手を当てる。
「だから、学校に目をつけたんですね」
「その通りだ。さすがに鋭いな」
ゆかりは表情を緩める。
「事実、青柳怜は通学途中に失踪している」
彼女は目を細める。
「彼女の住んでいるエリアから、お前たちの高校に行く生徒は少ないらしくてな。通学途中の彼女の様子は掴めてないんだ。だから、学校内の近しい連中なら、何か知ってるんじゃないかと思ってな」
「なるほど。じゃあ、そのあたりを中心に情報を集めた方がよさそうですね」
「ああ、そうしてもらえると助かる」
「分かりました」
ゆかりもうなずく。
「正直、こいつだけじゃ、心もとないと思ってたのも事実だ」
真也は口を尖らせる。
「別に責めてるわけじゃないぞ。人間には向き不向きがあるって話だ。ここに関しては、お嬢を頼らしてもらうかな」
結月は静かにうなずいた。
「お前も、お嬢から少し学べ。なんで、あたしらとは普通に話せるのに、同級生とはダメなんだよ?」
「う~ん……、なんか、あの純粋なノリについていけないっていうか」
真也は弱々しく答える。
「私は大丈夫なの?」
「うん、なんでか分からないけど、君は大丈夫」
結月は顔をしかめ、拳を握りしめる。
「なんだろ、すごく複雑な気分」
「お前な、もう少し気ぃ利かせられねぇかなぁ」
ゆかりと結月は大きくため息をついた。
