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【長編小説】君の闇、光へと通ず ~現代異能探偵青春譚~

【第019話】大人の女?

「鷲尾さん」

「なんだ?」

「まったくできる気がしないんですが……」

「何言ってんだよ、世間話の体で話しかけるだけじゃねーか」

ゆかりは信じられないと言わんばかりに突き返す。
真也は眉間にしわを寄せている。

「男だろ? 今更、ゴチャゴチャ言ってんじゃねーよ。上手くいったら、お姉さんとの魅惑時間が待ってんだぞ」

そう言いながら、左手で真也の頬を撫でようとしたが、真也はそっぽを向く。

「あのですね、俺は人に話しかけるのが――」

「だー、男のクセにナヨナヨしてんじゃねーよ。そんなのほっときゃいいんだよ」

真也の背中に張り手をくらわしながら、ゆかりは恫喝した。

「ゆかり、それに関しては同感だけど、真也一人に任すのは得策じゃないと思うわ」

様子を見守っていたかおりが口をはさむ。
真也は口を尖らせて、かおりを見つめている。

「じゃあ、どーすんだよ? 異能が分かってるヤツじゃないと頼めないだろ? しかも、同じ高校でだ」

ゆかりは、かおりの方を向き、投げやりに言葉を飛ばす。

「それなんだけど、結月ちゃんにも頼んでみない?」

「えっ!?」

真也は驚き、ゆかりは顔をしかめた。

「あぁ~、そりゃあ頼めるもんなら、頼みたいけどさ……姉御も知ってんだろ?」

ゆかりの語気が一気に弱くなる。
かおりも腕を組み、天井を見つめた。

「だろ? あたしにはできない」

「やっぱりダメよねぇ。ゴメン、忘れてちょうだい」

かおりはあっさりと意見を取り下げた。

「母さん、そもそも、なんで来栖なの??」

真也はおそるおそる質問した。
かおりは、一瞬、ハッとした表情を浮かべたが、すぐに表情を引き締める。

「う~ん、何となくかな? あなたより、上手くやりそうな気がしたのよね」

「……」

真也は、険しい表情で組んだ指をピクつかせている。

「とにかく、今はこいつに賭けるしかない。お前も腹くくって、男見せろよ!」

ゆかりは、再度、真也の方を向くと、一際盛大な張り手を背中に叩き込んだ。

「……頑張ります」

真也は絞り出すように宣誓する。

「よし!」

真也の宣誓を確認すると、ゆかりは勢いよく立ち上がった。
そして、何かを思い出したのか、ポケットからスマホを取り出した。

「そうだ、連絡先!」

「これでいいですか?」

真也もスマホを取り出し、画面をゆかりへ差し出す。

「ああ、オーケー、登録した」

ゆかりは、真也の耳元へ顔を近づけ、小声で何かをささやいた。
真也は赤面して後ずさる。

ゆかりは、してやったりという表情を浮かべている。

「あんまり、うちの子に変なこと、吹き込まないでよね」

かおりはあきれ顔でたしなめる。

「やだな~姉御、大人の女を教えてやろうってだけだろ」

ゆかりは、真也の顔をグッと抱きよせ、胸に押し当てる。

「はぁ、それが問題だと言ってるの……だけど、あなたにかかれば、この子の人間嫌いも治るかもしれないわね」

「そうだろ、そうだろ! こいつはいじめがいがありそうだしな!」

ゆかりの腕に更に力が入る。

「んー!」

真也は引きはがそうと必死に抵抗している。
かおりは大きくため息を吐いた。

「それと、ゆかり。協力させるんだったら、もう少し説明しといた方がいいんじゃない?」

彼女はゆかりを指指しながら口調を強めた。

「いっけね、忘れてた」

ゆかりの腕の力が一気に緩む。
真也も空かさず、ゆかりから距離を取る。

「はぁ……、はぁ……」

「大人の女なら、その辺りも抜け目なくなさい」

「う~ん、姉御は痛いとこ突くなぁ」

ゆかりは渋い表情を浮かべていたが、ニヤッと笑うと真也の頬へと手を伸ばす。

「じゃあ、この続きは二人っきりで――いでで!!」

かおりが、ゆかりの耳を引っ張って静止する。

「ほら、真面目にやる」

「分かった! 分かったから!」

かおりが手を離すと、ゆかりは床へとへたり込んだ。

「いでで……姉御のは昔から痛えんだよぉ……うぅ、気を取り直して、確認するかぁ」

ゆかりは、意気消沈の様子で、耳をさすりながらバックへ手を伸ばす。
真也は冷めた目でかおりとゆかりを見つめている。

「えっとだな、名前は……」

ゆかりはタブレットを取り出すと、いきなり始めだす。
真也も慌ててノートを取り出し、新たなページを開くのだった。

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