【第032話】表裏一体
2026/03/07
「こっちかなぁ……」
迷いながらも、結月と真也は心界を進む。
「だんだん迷いがなくなってきたね?」
「そうかな? う~ん……」
結月は複雑な表情を浮かべている。
「そうでもないのかな?」
「むしろ、進むほど悩むというか、分からなくなるというか」
「分からなくなる?」
彼女は立ち止まる。
「そう、上手く言えないけど、どっちもある気がする」
「それは選択肢がってこと?」
「うん……」
結月は言葉を絞り出す。
「なんだろ、イケイケの自分とナーバスな自分がいるみたいな? 時と場合でどっちもあり得るし……」
「確かに」
真也は口に手を当てる。
「選んではいるんだけど、罪悪感もあるっていうか、何か違うなって感じもあるし」
「う~ん……」
二人で考え込む。
そして、真也が顔を上げる。
「ちょっと整理した方がいいかもね。罪悪感があるっていうのはなんか違う気がする」
「そうだね、この違和感は良くないかも」
彼はうなずく。
「あのさ、最初はあなたが選んでくれてたでしょ? あれはどうやって選んでたの?」
「あれ? う~ん、選んでたっていうよりは、君っぽい方に行こうって感じかな」
「私っぽい方?」
結月は真也の方を見る。
「そうそう、こういう想いや願いがあったんじゃないかな? みたいな」
彼女は空いた手を胸の前で握りしめる。
「?」
「……あのさ、真剣に考えてくれるのは嬉しいけど、そこまで分析されるとちょっと恥ずかしい」
「……ごめん、別に他意はないんだ」
真也はうつむく。
「分かってるよ」
結月がそう言ってつないだ手を振ると彼も顔を上げる。
「じゃあ、選んでるって感じじゃないんだね?」
「うん、違和感のない方に行くって感じ」
「違和感がない方……」
彼女は目を閉じる。
「そうだなぁ……想いの断片って、くっきりしてるってよりは、グラデーションして混じり合ってるみたいな感じじゃない? だから、なんというか、はっきりする方ではなくて、ちょうどいいところを行くみたいな」
「ちょうどいいところ? また、難しいこと言うね」
結月は顔をしかめる。
「他にいい表現があればいいんだけどな、う~ん……」
真也は頭をかく。
「つまり、相反するものだったとしても、どっちかを捨てたりはしてないってこと?」
「そうだね……むしろ、混じってるところを行ってたかも。捨てる捨てないっていうか、表裏一体っていうか、それも含めて君かなって」
「あ~、もっと分からなくなってきたかも」
結月は指で眉間を押さえる。
「俺も上手く言えたらいいんだけど……まあ、一つ言えることは、どちらも捨ててないし、どちらも否定してないってことかな」
「どちらも? どういうこと?」
結月は真也を見つめる。
「だって、両方とも君じゃん」
「両方とも私……」
「そう。普段の強い君も、たまに見せる弱い君も、両方あるから、君なんだと思うしね」
彼女は目を見開く。
「弱い部分もあるから優しくなれるし、その想いが君の原動力になって、強さにもなってるじゃないかなって」
真也が結月の視線に気づく。
「どうしたの?」
彼女は首を振る。
「いや、なんでも……そっか、両方ともつながってるってことなんだね」
「うん、だと思う」
結月は静かに息を吐き出す。
「弱さが強さの源か……考えたことなかったな」
「俺も気づいたのは今だけどね」
真也は失笑する。
「そう考えると、本当の意味で強い人って、自分の弱さを受け入れて、生きていこうって人なのかもね」
「……」
「そういう人の方がかっこよくない?」
彼は結月をのぞき込むと、彼女も穏やかにうなずいた。
「そうだね」
「でしょ」
真也はつないだ手を振る。
「もう迷わない」
そう言うと結月は新たな一歩を踏み出した。
