【第028話】守る者の覚悟
2026/02/07
*
「ん……」
「目が覚めたみたいね」
かおりが真也をのぞき込む。
「ここは?」
「Irisよ」
真也は起き上がろうとするが、力が入らない。
かおりが真也を制止する。
「もう少し休んでなさい」
真也は枕に頭を落とす。
「力が入らない」
「気力が抜けきってるからね」
「“気力”?」
「今はいいわ。何か食べたいものある?」
「普通に御飯が食べたい」
「オッケー。ちょっと待ってて」
かおりは処置室を出ていく。
「ふぅ……」
扉が勢いよく開く。
結月が真也に駆け寄る。
「……良かった」
「良かったじゃないよ!」
彼女は真也の胸倉をつかむ。
「死んじゃうかと思ったんだからね!」
結月の目が潤む。
「ごめん……」
「勝手にカッコつけて! これであなたがいなくなったら、私はどうしたらいいの……」
彼女はうつむく。
「……」
結月は手を離すと、部屋を出ていってしまった。
真也は気力を振りしぼって起き上がろうとする。
「怒られちゃった?」
入れ替わるように藍が入ってくる。
「……怒られました。あの――」
「大丈夫よ、今はそっとしときましょ」
真也はベッドに倒れ込む。
「落ち着いたら、お礼言っときなさいよ」
「お礼?」
「君が寝込んでる間、彼女がずっと見ててくれたのよ」
「来栖が?」
藍がうなずく。
「代るって言っても、私が見るって」
「……」
「心配し過ぎて、爆発しちゃったのかも」
「……なんでそこまで?」
彼女は微笑む。
「いなくなっちゃうかもって思ったんじゃないかな」
「どういうことですか?」
藍はしばし考え込む。
「……彼女の家のこと知ってる?」
「いえ」
「そう……」
「何か関係あるんですか?」
彼女は悲し気な表情を浮かべる。
「……結月はね、ある事件によって家族を引き裂かれたの」
「!」
「だからね、怖かったんだと思う」
真也は神妙な表情を浮かべる。
「まあ、それだけでもないだろうけど」
藍は真也の頬を指でつついた。
*
「異常はなさそうね」
かおりは聴診器を外しながら告げる。
「もう一日二日したら立って歩けるようになるわ」
真也は周囲を見回す。
「母さん、この部屋は?」
「ここは、異能にかかわる医療を行う場所よ」
彼はある装置を見つめる。
「これは、吸い出した気力をため込む装置」
「“吸い出した気力”?」
かおりは装置に手を当てる。
「そう。私の能力はあらゆるエネルギーを吸収する。ただ、そのまま吸ってしまうと、私にも害があるから、吸い出したものをこれにため込んでる」
「そうなんだ……母さんはずっとこういうことを?」
「ええ、異能医療が私の専門よ」
「“異能医療”……そんなものが」
「異能は身体にも精神にも大きく関わっている。だから、医療的なアプローチも必要になるってわけ」
「知らないことだらけだな」
真也は視線を落とす。
「まっ、表には出ないからね」
かおりはパソコンへと向かう。
「あのさ、来栖は?」
「結月ちゃん? う~ん……謝るべきね」
「えっ?」
彼女はしばし考える。
「そうね……真也はよくやったと思う。親としては、女の子を守ったあなたを誇らしく思う。でもね……」
真也は神妙な表情を浮かべる。
「彼女の立場からすれば、同じ目線で歩いていたはずのあなたに守られてしまった。自分は守られる側の人間なんだって思ってしまった」
「そんなこと――」
「分かってるわ。そんなつもりはなかったことも。でも、これは理屈じゃないの」
「……」
「もし、これで、あなたが返らぬ存在となったら、結月ちゃんはどう思うか想像できる?」
彼はうつむく。
「守るにしても捨て身はダメ。そんなのでは、守られた側も、命は助かっても、心に深い傷を負ってしまう」
かおりは真也の手を握る。
「真也が、他人を守りたいと思うなら、自分も生き抜く覚悟を持ちなさい。そして、正々堂々と守れるように、その術を身につけなさい」
真也はしばらくして顔を上げる。
「……分かった」
かおりも彼の表情を見て、うなずく。
「よろしい」
「歩けるようになったら、ちゃんと謝ってくる」
「うん、そうしなさい」
彼女は優しく微笑んだ。
