【第027話】変わりゆく日常
2026/01/31
ゆかりが処置室の扉をノックするが、返事はない。
「入るぞ」
真也が横たわるベッドの横に、結月が座っている。
「ゆづ……」
結月がゆかりの方を向く。
「あまり、気にしすぎるなよ」
結月の反応はない。
「別に死んだわけじゃねぇし、その内、目を覚ます」
彼女はうつむく。
「……私が行ってみようなんて言うから――」
「そうじゃない、そうじゃねぇぞ、ゆづ」
ゆかりは結月の肩に手を当てる。
「こいつのことだ、行く前からそんなことは覚悟決めてたと思うぞ」
結月が顔を上げる。
「真也は良くも悪くも慎重派だと思う。チキンで腰が重いとバカにはしたが、それはリスクを考えられるからこそだ」
「……」
「だからこそ、異能の気配を感じた瞬間にお前を遠ざけたんだ。いざって時に、そうしようと決めてたんだと思う」
彼女の目が潤む。
「普段は頼りねぇくせに男見せやがって」
ゆかりは微笑み、結月の頭をなでる。
「だから、そんな落ち込んでやるな」
ゆかりは結月を抱きしめた。
*
「そう……」
藍は小さく息を吐く。
「さっき、“統領”から連絡が来た」
かおりも静かに息を吐く。
「また、始まるのね」
「……まだ断定はできないけど」
藍が何かに気づく。
「まさか、哲が駆り出されたのも?」
「そうかもしれない」
かおりはうつむく。
「だったらなおさら、二人を守らないとね」
「ああ、それに、ある意味チャンスかもしれない」
「チャンス?」
彼女は腕を組む。
「私たちにも、あの子たちにも、時間ができた。合法的にね」
「なるほど」
藍は口に手を当てる。
「どの道、目途が付くまで、私たちはここを出ることができない」
「確かに、鍛えるにはもってこいかもね」
「あの子たちも、本質的な異能の脅威を認識したはずだ」
「そうね。鉄は熱いうちに叩けというし」
「ただ、真也も目覚めてないし、結月ちゃんにも時間は必要だろう。数日休ませて、二人にも話そうと思う」
「オッケー」
カウンター奥の扉が開く。
「姉御、容器回収したから、戻るわ」
ゆかりは鍵をかおりへ手渡す。
「保護特例の話は?」
「ゆづにはさっきした」
「なんか言ってた?」
「分かったって」
かおりと藍は神妙な表情を浮かべる。
「あと、ゆづん家に説明に行ってくる」
藍がエプロンを取る。
「私も行くわ、久々に顔も見せたいし」
「助かるぜ、藍の姉御」
かおりは立ち上がる。
「真也は、私が見ておくから、三人で行ってきて」
藍とゆかりはうなずく。
「はぁ~、正直、署に戻りたくねぇ……」
ゆかりはうなだれる。
「大丈夫でしょ? あの人は哲と動いてるんでしょ?」
「そうだけど……」
藍がゆかりの背中をポンと叩く。
「元締めも言ってくれてるだろうし、私もこの後、連絡しとくわ」
「恩に着る、姉御ぉ」
かおりは小さくため息をつく。
「さすがに、理解してくれると思うけどね」
ゆかりは手を横に振る。
「いやいや、娘のことになると空気変わるからな」
かおりと藍は苦笑いを浮かべる。
「まあ、徹底しているという点では私たち以上かも」
「だろ? ゆづが実は異能を発現してたとか口が裂けても言えない」
「隠し通せるとも思わないけどね」
「それでもだ!」
「はいはい、大丈夫よ。その時は私が何とかするから。あなたは目の前のことをやりなさい」
かおりはそっとゆかりの頭をなでた。
