【第023話】嵐の予感
2026/01/03
*
「なるほど」
真也は口に手を当てる。
「青柳さんと同じ中学の子から聞いたから、読みとして、そんなに遠くないはず」
横を歩く結月は目を細める。
「可能性はあると思う。好きなこととか、行動に影響しそうだし」
「そうだよね」
「俺たちは情報収集するのが役目だから、それも鷲尾さんに伝えていいと思う。逆に選んじゃいけない気がする」
「分かった。じゃあ、これも伝えてみる」
真也はうなずき、腕時計を確認する。
「間に合いそうだな」
「うん」
二人は少しだけ歩調を速めた。
*
「確かに、その線はあるかもな」
そう言うと、ゆかりはカップを口へ運ぶ。
「彼女はもともと占い好きだったみたいで、そういう場所に行ったりもあるかなって」
「そうだな。回復を祈ってても、おかしくないか」
「状況的に、占い自体はしないと思う。でも、スピリチュアルなことに惹かれる彼女なら、祈ることもあったかもしれない」
「それで“神社”ってことか」
ゆかりは口に手を当てる。
「構えずにフラッと行けますし」
真也も口をはさむ。
「分かった。その線も調べてみる」
「ありがとうございます」
ゆかりは首を横に振る。
「礼を言うのはこっちだ。引き続き、よろしく頼む」
結月がうなずくと、ゆかりはバックに手をかける。
「っと、すまねぇ。今日はこれで失礼するわ。明日は……後でメッセージ入れとく」
「分かりました」
ゆかりはうなずき、雪峰家のリビングを出ていった。
「さて、準備するか」
真也は立ち上がり、身体を伸ばす。
「ねえねえ」
「ん?」
「明日出かけてみない?」
「……いいけど、どこへ?」
結月がスマホの画面を見せると真也は顔をしかめる。
「おい、大丈夫なのか?」
「大丈夫でしょ? ただ、神社巡りするだけだし」
「う~ん……」
真也は腕を組む。
「土地勘があった方が情報収集もしやすいし、損はないでしょ?」
「確かに……まあ、神社自体に危険があるわけではないか」
「うん、それに行くなら早い方がいい」
彼は顔を上げる。
「分かった、行こう」
「決まりね。じゃあ、明日は10:00に東口改札でいい?」
「オッケー」
結月はスマホをのぞく。
「地図で少し調べとこっかな」
「俺も調べとく。ルートは明日」
結月はうなずく。
「よし! あとはバイトだな」
「そうね」
各々身支度へと向かう。
*
「ご機嫌麗しゅう、お二人さん」
真也と結月が通用口をくぐると、明がカウンター席から声をかける。
「なんでお前がいるんだよ」
彼は大げさな身振り手振りで訴えかける。
「ふふ、よくぞ聞いた! じいちゃんのお使いで来たら、人目を忍んでIrisへ入ってく二人――」
「分かった、もういい。帰っていいぞ」
真也は掃うように手を振る。
「そりゃあ、ないだろ。コーヒーの一杯でも出してくれよ」
明はそう言いながらカップを口へ運ぶ。
真也は顔をしかめる。
「噂どおりね」
藍は優しく微笑み、大きな封筒を明へと差し出した。
「これを元締めに」
「了解です」
明はその封筒をバックへしまう。
「なあ、Irisへはよく来るのか?」
「ああ、一週間に一回は来るかな。いつもは土曜日の朝だけど」
「お前、そんなことしてたのか」
真也は目を見開く。
「じいちゃんって顔が広いだろ? 町内会の書類とかは俺が届けてるんだ」
「今はメールとかあるだろ?」
明は指を振る。
「チッチッチ、この街もご多忙にもれず高齢化社会なんだ。今後に及んでもアナログ隆盛ってね」
「デジタル化すら、いまだ遠しってことか」
真也は腕を組む。
「まあ、昔からとはいえ、本当に助かってるわ」
「いえいえ、Irisの永久無銭飲食権を与えられてますから!」
「とんでもない権利だな」
彼は眉間にしわを寄せる。
「これぞ人徳ってやつ」
「自分で言うな」
明は何かに気づく。
「ところで、前から気になってたんだけど、なんで、みんな、じいちゃんを元締めとか、統領とかって言うんだろ? ただの本屋の店長なのにさ」
藍がクスッと笑う。
「まあ、愛称みたいなもんね。世話好きで、町内会でも要だし、みんな何かしらで助けてもらってるしね」
「ふ~ん、じいちゃんものほほんとしてるだけじゃないんだな」
「家族の前だとそうなのかもだけど、私たちからすると、とても頼もしい存在よ」
「そっかぁ、なんだか照れるなぁ」
明は頭をかく。
「お前じゃない」
彼はニカッと笑う。
「じゃあ、そろそろ帰るわ。二人とも末永くお幸せに」
そう言うと、忙しなく店を出ていった。
「まったく口をはさめなかった……」
結月がボソッと吐き出す。
「ごめん、悪気はないんだ」
「まあ、いいけどさ、誤解だけは解いといてよね」
「誤解?」
彼女はため息をつく。
「彼、私たちのこと、男女の仲だと思ってるよ」
真也は額に手を当て、天を仰いだ。
