【第018話】ミステリーは突然に
2025/11/29
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「失踪事件?」
「ええ、それで真也に協力してほしいの」
夕陽が差し込む雪峰家のリビングでかおりが切り出した。
真也はいつも通りにバイトに来ただけであったが、到着するなり、かおりにリビングへと呼び出されたのであった。
「えっ? なんで、自分なの?」
「それは私が」
スーツを着た見知らぬ女性が割って入る。
真也が視線を送ると、かおりは困ったような笑顔でうなずいた。
「初めまして。警察庁刑事局異能犯罪対策課の鷲尾と申します。本事件の捜査を担当しています」
鷲尾は、警察手帳を見せつつ、丁寧に挨拶した。
真也も軽くお辞儀をする。
「これまでの捜査から、この事件には、異能が関係している可能性が指摘されています。そのため、所轄の警察と協力しつつ捜査を進めている次第です」
「はぁ……でも、それと自分になんの関係が?」
鷲尾は小さくうなずき続ける。
「その失踪者は、あなたが通っている高校の生徒なのです」
「!?」
「失踪届が出されたのが1週間前。ただ、現状、失踪者の足取りを掴む情報は得られていません」
「待ってください。そんな話、聞いたことがありません。そんな事件が起きてるなら、騒ぎになってても――」
「指摘はもっともです。本件は、関係者やメディアも含めて、徹底的な情報統制がなされています」
真也の言葉を遮り、彼女は淡々と説明する。
「そんなにやばい事件なんですか?」
「情報統制については、事件の深刻度というより、事件の性質の問題です。異能の存在は、公には伏せられています。そんな状況で、怪奇現象ともいえる事件が世間へ公表されたら、どうなると思いますか?」
真也は沈黙し考え込んだが、しばらくして目を大きく見開いた。
「ご理解いただけたようで何よりです。そんな事情もあり、警察も大々的な聞き込み捜査ができない状況です。特に、学内の関係者ですね」
そう言うと鷲尾は真也をまっすぐに見つめた。
「まさか、自分に学内の聞き込みをしろと?」
彼女はニコッとうなずいた。
「ご明察。あなたは、異能の事情や危険性を理解している。かおりさんや藍さんも含めた関係者からお話を伺い、人間性にも問題がないと判断しました」
「そう言われても……」
真也はうつむく。
「あた……、私たちは、あなたに事件の解決をしてくれと言ってるわけではありません。我々は、学内関係者からの情報が欲しい」
「……」
「事件捜査に協力していただくにあたっては、リスクに対する万全の備えとフォローをさせていただきます。それを踏まえた上で、失踪した子を助けるために協力していただけないでしょうか」
鷲尾は深々と頭を下げた。
しばしの沈黙の後、真也は顔を上げる。
「……分かりました。ただ、あまり期待しないでもらえると」
「ありがとうございます。もちろん、できる範囲で構いませんし、危険を感じたら引いてください」
真也は静かにうなずいた。
それを確認すると、かおりが切り出した。
「まとまったようね。……ゆかり、もういいわよ」
鷲尾はピクリと眉を動かすと、一気に表情を緩め、ニカッと笑みになった。
「はははっ! いや~、ギリギリだったな!」
「へっ!?」
真也は呆然と鷲尾を見つめる。
彼女は対面のソファーから立ち上がると、真也の横に座り、背中をボンっと叩いた。
「つーわけで、よろしく頼むぞ、少年」
「協力の謝礼は弾むから、楽しみにしとけよ」
かおりが顔をしかめる。
「ゆかり、まだ高校生だから」
「そうか……じゃあ、あたしとのデート券とか? あたしが大人の階段、昇らせちゃおっかな~?」
鷲尾は真也の肩を抱き寄せ、耳元でささやく。
「ゆ・か・り」
「冗談だよ、冗談。そんな、こえー顔すんなよ」
彼女は軽く受け流すと、ふと何かに気づく。
「おっと、少年の方はまんざらでもなさそうじゃん。お姉さんと一緒に高みを目指してみる?」
鷲尾は左手で真也の太ももをなぞる。
真也はゾクリと震えた。
「はははっ! いじりがいのあるヤツ!」
彼女は腕で真也の首を抱え込む。
「ともかく、一人の女の子を救うために協力してくれや」
「“女の子”?」
真也は鷲尾の方へ向き直し、聞き返した。
「ああ、言ってなかったか?」
真也は、口をぽかんと開けて、虚空を見つめる。
そして、震えるように息を吐き出した。
